彼岸花 2

まだあげそめし前髪の・・・・ 




林檎のもとに見えしとき




前にさしたる花櫛の




花ある君と思ひけり




やさしく白き手をのべて




林檎をわれにあたへしは


うす紅の秋の実に




人こほそめしはじめなり




わがこころなきためいきの





その髪の毛にかゝるとき





たのしき恋の盃を



君が情けに酌みしかな





林檎畑の木の下に




おのづからなる細道は



誰が踏みそめしかたみぞと



問ひたまふこそこひしけれ




島崎藤村 「若菜集」 初恋より